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新潟地方裁判所 昭和45年(ワ)352号 判決 1971年8月18日

原告

円山重衛

ほか一一名

被告

株式会社加賀田組

ほか一名

主文

一、被告らは各自

原告円山重衛に対し 三四万九、七八三円

原告円山昌太郎に対し 一七八万二、〇九九円

原告円山恵美子に対し 一三〇万七、〇四〇円

原告円山映子に対し 二二万八、〇〇〇円

その余の原告らに対し各 二万四、九八一円

および以上の金員につき昭和四五年七月一六日以降各完済迄各年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

一、この判決の第一項は仮に執行できる。

事実

別紙記載のとおり

理由

一、本件事故と被告らの責任ならびに事故被害者と原告らの身分関係については当事者間に争いがない(被告会社は自賠法三条の責任を否定しているが、民法七一五条の責任があることを認めている)。

二、そこで本件事故による損害について検討する。

(一)  亡ミノリの逸失利益

〔証拠略〕によれば、ミノリは明治四二年九月六日生で本件事故死亡時(昭和四四年九月三日)ほぼ満六〇才の老令であつたが、健康で家事の傍わら、助産婦として月に一、二件の出産を扱うほか、京ケ瀬村役場の委嘱で妊産婦検診や育児相談をし、また原告重衛方の田畑を耕作し、自から営む綿の打直し業にも従事していたことが認められる。

ところで右ミノリの労働による収入について、〔証拠略〕中にはこれを一カ月約六万円とする供述があるけれども、その裏付資料は全く提出されておらず、ミノリの収入額が如何ほどであつたかを具体的に確認し得る証拠はない。

然しミノリが老令にも拘らず健康で家事のほか種々の仕事に従事していたことは前認定のとおりであり、昭和四四年度賃金センサスによれば全産業女子労働者のうち小学卒六〇才以上の者の年間平均給与は合計三六万四、二〇〇円(毎月の給料二万六、五〇〇円、ほかに年間賞与等四万六、二〇〇円)であるから、ミノリは事業所に勤務する労働者ではないにしても前記の稼働状況に照らせば控え目にみても年間三六万円(月収三万円)の収入はあつたと推認でき、その生活費は原告ら主張のとおり右収入の五割とみるのが相当であるから、その年間利益は一八万円となる。

そして第一二回生命表、昭和四四年四月速報)によれば、満六〇才女子の平均余命は一八・四二年であるから、ミノリはその健康状態からみて右平均余命のほぼ三分の一である六年間、即ち通常の人よりも若干長く満六六才迄は稼動可能であつたと推認できる。

そこでミノリの逸失利益の現価を法定利率による年毎ホフマン式計算によつて求めれば、その計数は五・一三三六であるから、現価は九二万四、〇四八円となる。

(二)  亡匡子の逸失利益

〔証拠略〕によれば、匡子は昭和四〇年一一月二三日生で事故死亡時ほぼ満四才の健康な女児であつたと認められる。

そして前記賃金センサスによれば全産業女子労働者のうち満一八才ないし一九才の者の年間平均給与は合計三六万九〇〇円(毎月の給料二万五、四〇〇円。年間賞与等五万六、一〇〇円)であり、前記生命表によれば満四才の女児の平均余命は七〇・四二才であるから、匡子は控え目にみても満一八才から満六三才迄の五〇年間は職につき或いは主婦として働き前記程度の年間収入をあげ得る稼働能力を有していたものと推認できる。そして右収入に対する生活費の割合を前同様五割とすればその年間利益は一八万四五〇円となり、前同様のホフマン式計算によつてその現価を求めると、その計数は一六・六九五三(この計数の算出方法は補助参加人主張のとおり)であるから、これを前記年間利益に乗ずればその現価は三〇一万二、六六六円(銭単位切捨、以下同様)となる。

なお補助参加人は匡子が満一八才になる迄の養育費を控除すべきだと主張するが、当裁判所は右の見解を採らない(参照、最判昭和三九年六月二四日、民集一八・五・八七四)。

(三)  亡ミノリと匡子の葬儀関係費用

(1)  別表(一)の支出のうち、〔証拠略〕によれば同表(11)の薬品代は本件事故と関係がなく、(13)の返礼用函詰茶は香典返しで本来その費用を加害者に賠償させるべき性質のものではないし、(29)の書類代および雑費については支出明細の資料がない。以上の合計一万九、二六〇円については葬儀費用としての支出を全く認めることができない。

その他の別表(一)の各支出合計四二万六、〇六五円については、〔証拠略〕によると、いずれも重衛が遺体の引取り、葬儀、四九日の法要のため支出した種々雑多な費用であると認められる。

(2)  なお原告昌太郎が支出した別表(二)の雑費のうちでも、〔証拠略〕によれば、(1)、(7)、(13)、(15)、(16)はいずれも重衛の支出と同様の葬儀関係費用として請求しているものと認められるので、便宜上ここで一括し判断すれば、(1)の電報代は〔証拠略〕によると原告マサなど子供らと本件事故や葬儀のため連絡に要した費用であるというのであるが、その請求額一万四、二九三円は重衛方における昭和四四年八月二一日から九月二〇日迄の基本料金六五〇円を含む電話、電報代の全額で、そのうち基本料金が本件事故と係りのない重衛方の支出であることは明らかであり、またその余の分についてもそのうち幾らが本件事故および葬儀のため要した電話、電報代であるかは不明というほかなく、また(1)のうちのオオヌキ商店支払分と(13)の大貫洋品店支払分はいずれも香典返しであり、(15)の山辰建設支払分は葬儀の際の大勢の客のくみとり料というのであつて、以上の支出については葬儀関係の費用として全く認めることができず、ただ(7)の交通費は事故から葬儀迄のタクシー代であり、(16)の食品代は四九日の法要における賄費であるから、この合計三万五〇五円は原告昌太郎が葬儀関係に支出した費用と認めることができる。

(3)  右のとおりで亡ミノリと匡子の葬儀関係費用の支出としては原告重衛支出分四二万六、〇六五円、原告昌太郎支出分三万五〇五円の合計四五万六、五七〇円が認められるけれども、その支出金額の一つ一つが葬儀関係費用として加害者に賠償させるべき相当性を有するものかどうかについてはこれを確定するに足りる証拠がない(原告らは支出した費用のすべてを加害者の負担に帰すことができると考えているようであるが、それは誤りというほかなく、賠償させることができるのは死者の年令、家族構成、社会的地位ならびに習俗などに照らし相当と認められる範囲の支出費用である)。

そして一般に葬儀費用としては、特段の事情のない限り、一件二〇万ないし三〇万円の範囲で相当性あるものと解されているから、本件の場合は死者の年令、家族構成、社会的地位、二名の合同葬儀であること等を考慮し、遺体の引取りから葬儀、四九日の法要に関する費用として合計四〇万円を加害者に賠償させるに相当な葬儀関係費用と認める。

(四)  原告昌太郎の支出した診療費、その他の雑費

(1)  別表(二)の(2)と(10)の診療費合計一万八、八一五円は成立に争いのない甲第七号証の三と二〇ならびに原告重衛尋問の結果により原告映子の水原郷病院における治療費であり、同表(3)の診療費四万二、七八四円は〔証拠略〕により、亡匡子の死亡に至る迄の中央病院における治療費であると認める(但しこの治療費については後述(六)の(2)のとおり自賠責保険より全額支払済みである)。

(2)  別表(二)の(4)、(5)の診療費、(6)の死亡証明、(8)の診療費については、〔証拠略〕によれば、(4)は中央病院の亡匡子に関する診断書代、(5)は水原郷病院の原告映子、亡ミノリに関する診断書代、(6)は京ケ瀬村役場の亡ミノリ、同匡子に関する死亡証明書代、(8)は原告恵美子が本件事故を知り驚いて倒れた際の水原郷病院における治療費で、以上の合計二、〇六五円は前記(二)項の葬儀関係費用に含まれぬ別箇の支出で、加害者に賠償させるのが相当なものと認められる。

(3)  なお別表(二)の(9)ないし(12)、(17)、(18)の各交通費、(14)の容器代、(20)のその他の支出については、〔証拠略〕によれば、(9)と(10)は昭和四五年九月のタクシー代で本件事故との関係不明(重衛はこれを四四年のまちがいであると供述するが措信できない)、(11)と(12)は診断書をとりに行つた際のタクシー代でタクシー利用の担当性について立証がなく、(14)、(17)、(18)については本件事故との関係について、(20)はその支出の明細についていずれも何らの立証がされていない。従つて以上については加害者に賠償させるべき理由がない。

(五)  慰藉料

(1)  原告らに対する慰藉料額

原告重衛 一二〇万円

同昌太郎(母の死亡) 五〇万円

(子の死亡) 一五〇万円

同恵美子(子の死亡) 一二〇万円

同映子(自己の受傷) 二五万円

その余の原告ら (母の死亡) 各一〇万円

(2)  慰藉料算定事情

(イ) 亡ミノリ、匡子に関しては、交通事故死亡について一般に行なわれているとおり一家の主柱的成年男子の死亡三〇〇万円を基準とし、亡ミノリと匡子の年令、家族環境、事故の態様等を考慮して前記のとおり決定した(亡ミノリ分は合計二五〇万円、亡匡子分は合計二七〇万円となる)。

原告らは近親者死亡の場合民法七一一条該当者以外の親族にも民法七〇九条、七一〇条に基づく慰藉料請求権があるとの立場から、原告重衛と同映子は明示的に区別し、その余の原告らは区別せずに民法七一一条所定外の孫、祖母、姉、姪の関係にある親族の死亡に対する慰藉料を請求しているが、当裁判所は右の見解を採らない。民法七一一条所定以外の親族もしくは第三者に慰藉料請求権を認め得るのは、同条該当の親族がいないとか或いは死者と慰藉料請求者との間に事実上同条所定の親族に該当するとみられるような特別の関係がある場合のみ実質的公平の見地から限定的に肯認し得るということがあるだけで、本件はこの特別な場合に該当しない。

なお原告昌太郎については本件事故によつて一時に同居の母と子を失つた点を考慮し通例よりも増額して算定した。

(ロ) 原告映子については、〔証拠略〕によると、本件事故により主張の傷害を受け、水原郷病院へ昭和四四年九月三日から同月一一日迄九日間入院しその後同月一三、一六日の二日通院、なお一時外傷性頸部症候群の症状(頸部運動制限、左下肢の痳痺)が出、新潟大学医学部附属病院に四日間通院したが、同年一〇月八日には右症状も全体的に改善されたこと、受傷時には左前額、左頬、左下顎に各二糎、右大腿に五糎の創があつたけれども昭和四五年一〇月二四日当時においては下口唇の下部(前記の左下顎に当る部分)に一・五糎、右膝窩部(前記の右大腿に当る部分)に約三糎の瘢痕が残つているだけであることが認められる。

そして右の瘢痕が原告映子の成長と共に消失するものか、拡大するものか、或いは現状のまま残るものかについては医師の所見もなく不明というほかない(原告重衛の供述によると原告映子の足の瘢痕はだんだん盛り上り大きくなつてきたというのであるが、右大腿の瘢痕については昭和四四年一一月九日付水原郷病院の診断書(丙第二号証)には五糎と記載され、昭和四五年一〇月二四日付新潟大学医学部附属病院の診断書(甲第八号証)には三糎と記載されているのであり、この事実からすると右瘢痕は次第に縮少するのではないかとも思われるが、医師の所見がない以上果して右瘢痕が今後どうなるかについて現段階では不明というほかない)。

以上の事実に本件事故の態様を考慮して原告映子の慰藉料を二五万円と算定した。

(ハ) なお原告らは被告らが本件事故の損害賠償について不誠実な態度をとつた(そのため原告らの精神的苦痛が増加した)と主張するが、この点については弁護士費用の項において述べるとおりで原告らの主張は採るを得ない。

(六)  自賠責保険金の支払と損害額への充当

(1)  ミノリと匡子の死亡について各三〇〇万円の自賠責保険金が支払われたことは原告らの自認するところである。

(2)  また〔証拠略〕によれば、右のほか匡子の死亡に至る迄の中央病院における治療費と原告映子の水原郷病院における入通院治療費(前記(四)の(1)で認定した分)の各全額ならびに原告映子に対する慰藉料として二万二、〇〇〇円が既に自賠責保険より支払済みであることが認められる。

(3)  そこで(1)の自賠責保険金各三〇〇万円をミノリと匡子の死亡による積極損害、消極損害、慰藉料の順で充当すると、

(イ) 亡ミノリについては、前記(三)の葬儀費の二分の一である二〇万円、同(四)の(2)の雑費のうちミノリに関する別表(二)の(5)と(6)の各二分の一の合計五〇〇円、同(一)の逸失利益九二万四、〇四八円、同(五)の慰藉料合計二五〇万円のうち一八七万五五、四五二円、以上の総計三〇〇万円が自賠責保険金によつて支払われたことになるので、慰藉料未払残額の六二万四、五四八円を原告ら各自の慰藉料額に応じて配分すれば、原告重衛は二九万九、七八三円、原告昌太郎は一二万四、九〇九円、その他の子である原告マサら八名は各二万四、九八一円となり、これが右原告らのミノリの死亡による損害のうち自賠責保険金三〇〇万円の受領によつてもなお未払分として残存する損害額となる。

(ロ) 次に亡匡子については、前記(三)の葬儀費の二分の一である二〇万円、同(四)の(2)の雑費のうち匡子に関する別表(二)の(4)、(6)の二分の一、(8)の合計一、四一五円、同(二)の逸失利益のうち二七九万八、五八五円、以上の総計三〇〇万円が自賠責保険金によつて支払われたことになるので、逸失利益の未払残額二一万四、〇八一円を原告昌太郎と同恵美子の各相続分に応じ配分すると各一〇万七、〇四〇円となり、匡子の死亡による右原告らの損害のうち自賠責保険金三〇〇万円の受領によつてもなお未払として残る損害額は、原告昌太郎につき(二)の逸失利益相続分の未払額一〇万七、〇四〇円(五)の慰藉料一五〇万円の合計一六〇万七、〇四〇円、原告恵美子につき同様(二)の一〇万七、〇四〇円と(五)の一二〇万円の合計一三〇万七、〇四〇円となる。

(ハ) なお原告映子に関する損害としては原告昌太郎が支出した前記(四)の(2)の雑費のうち原告映子に関する別表(二)の(5)の二分の一である一五〇円、同(五)の原告映子自身の慰藉料二五万円のうち自賠責保険より受領済みの二万二、〇〇〇円を差引いた残額二二万八、〇〇〇円となる。

(七)  弁護士費用について

〔証拠略〕によれば、本件の損害賠償については当事者間に示談および調停が行なわれ、被告らとしては被告会社に相当の資力もあり、また被告伊藤が補助参加保険会社の任意保険に加入しているところから、社会一般に行なわれている賠償額であればこれに応ずる意向であつたが、原告重衛は慰藉料について独自の見解をもち、当初総額六、〇〇〇万円の要求をし、その後も終始過大な要求を固執して譲らなかつたため本訴に至つたものと認められ、当裁判所係属中にも被告らからは前記認容額を若干下回るがほぼこれに近い額の和解申出もあつたが、原告重衛は請求金額(原告ら合計二、七五八万三五六円)にこだわり和解に応じようとしなかつた。

以上の経過に徴すると本訴提起と遂行に斐した弁護士費用のうち前記認容額(合計三七六万六、七七八円)のほぼ二・五パーセントにあたる一〇万円をもつて賠償請求権実現のために要した相当性のある費用と認める。そして重衛尋問の結果によれば弁護士費用は原告重衛と同昌太郎が折半して支出したものと認められるので各二分の一の五万円を両原告の前記損害額に加算する。

三、結び

以上述べたとおりで、本件請求のうち原告重衛については三四万九、七八三円(前項(六)の(3)の(イ)と(七)の合計)、原告昌太郎については一七八万二、〇九九円(前項(3)の(イ)、(ロ)、(ハ)と(七)の合計)、原告恵美子については一三〇万七、〇四〇円(前項(3)の(ロ))、原告映子については二二万八、〇〇〇円(同(ハ))、その他の原告らについては各二万四、九八一円(同(イ))の各金員とこれらに対する昭和四五年七月一六日(本件訴状副本送達の翌日)以降完済迄民法所定の遅延損害金を被告ら各自が支払うよう求める限度において理由があり、その余は失当である。

よつて原告らの請求を右の限度で認容し、その余をすべて棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井野場秀臣)

別紙

一、原告らの申立

「被告らは各自、原告円山重衛に対し六七九万七一六円、同円山昌太郎に対し六七五万八、四〇四円、同円山恵美子に対し三六三万九、四二八円、同円山映子に対し四〇〇万円、その余の原告らに対し各七九万八、九七六円および以上の各金員につき昭和四五年七月一六日以降各完済迄各学年五分の割合による金員を支払え。」との判決と仮執行宣言を求めた。

二、原告らの請求原因

(一) 本件事故

訴外円山ミノリ、同匡子、原告映子の三名は、昭和四四年九月三日午後三時三〇分頃新潟県北蒲原郡京ケ瀬村大字上黒瀬一四三番地道路脇のバス停留所においてバス待ち中、被告伊藤運転の小型乗用自動車(登録番号茨らま四六二三号)にはね飛ばされ、ミノリは即死、匡子は四時間後に死亡、原告映子は二週間の治療を要する頭部外傷、顔面挫創、右大腿挫創の傷害を受けた。

(二) 被告らの責任

被告伊藤は被告会社の被用者で被告会社の業務執行のため前記自動車を運転中その過失により本件事故を起したものであり、また右自動車の所有名義は被告伊藤となつている。

従つて被告伊藤は民法七〇九条、自賠法三条、被告会社は民法七一五条、自賠法三条により、各自本件事故につき損害賠償の責任がある。

(三) 本件事故被害者と原告らの身分関係

原告重衛は亡ミノリの夫、原告昌太郎は重衛・ミノリ夫婦の長男で、原告恵美子はその妻、亡匡子と原告映子は昌太郎・恵美子夫婦の子、その余の原告らはいずれも重衛、ミノリ夫婦の子である。

(四) 本件事故による損害

(1) 亡ミノリの逸失利益 一三三万六、一七四円

亡ミノリは当時五九才の主婦兼助産婦で、昭和四三年賃金構造基本統計調査報告書によれば家事従事者を含む女子有職者の五〇ないし五九才の月額平均収入は三万三、八〇〇円であるから、その生活費を右収入の五割、就労可能年数を八年として、ホフマン式計算によりその逸失利益の現価を算出すれば一三三万六、一七四円となる。

原告重衛は右損害の三分の一である四四万五、三九一円、原告昌太郎ら九名の子は各二七分の二である九万八、九七六円ずつ相続した。

(2) 亡匡子の逸失利益 四二七万八、八五六円

亡匡子は当時四才の女児で、前記報告書によれば女子平均賃金は月額収入二万五、八〇〇円、他に年間特別給与金五万八、七〇〇円であるから、生活費を右収入の五割、就労可能年数を一八才から六三才迄の四五年間としホフマン式計算によつて逸失利益の現価を算出すると四二七万八、八五六円となる。

原告昌太郎、同恵美子は右損害の各二分の一である二一三万九、四二八円ずつ相続した。

(3) 原告重衛の支出した葬儀費用 四四万五、三二五円

内訳は別表(一)のとおりで亡ミノリ、亡匡子のため支出したもの。

(4) 原告重衛の支出した弁護士費用 二〇万円

原告訴訟代理人に着手金として支払つたもの。

(5) 原告昌太郎の支出した原告映子の治療費、交通費、その他の諸雑費一二万円

内訳は別表(二)のとおり。

(6) 原告昌太郎の支出した弁護士費用 二〇万円

(4)と同じ。

(7) 慰藉料

(イ) 原告重衛 六〇〇万円

原告重衛は妻ミノリ、長男昌太郎夫婦および孫の匡子、映子と共に円満な家庭を営んでいた。ミノリは夫および長男夫婦の出勤後は留守をまもり、孫の養育、田畑の耕作、助産婦としての活動などをし、原告家の中心的存在であつた。

原告重衛は一瞬の事故で最愛の妻と孫を失い、一時はそのシヨツクで精神状態に変調を来たすほどの苦痛を受けた。

本件のように同時に妻と孫を失つた場合は単純な一プラス一の如き慰藉料算定は妥当でなく、その精神的苦痛の深さは十分に考慮されるべきである。

頭書金員のうち三〇〇万円は妻の死亡(民法七一一条)、他は孫の死亡(同法七一〇条)に対するものである。

(ロ) 原告昌太郎 六〇〇万円

原告昌太郎は母親のミノリと娘の匡子を同時に失つたもので、この精神的苦痛は単に一人の死亡による悲しみが単純に倍加されたという如き内容のものでなく、人間にとつて堪え得る限界を越えた塗炭の苦しみであり永遠に償い難いものである。

(ハ) 原告恵美子 三〇〇万円

原告恵美子は二児の母であつたが、身体の手術により既に子を産めずにいたところ不慮の事故により一児を失つた。

また原告恵美子は本件事故迄留守を義母のミノリに頼み美容院に勤務していたが、義母ミノリの死亡で職場を断念せざるを得なくなつた実状にある。

(ニ) 原告映子 四〇〇万円

原告映子は第一項記載の傷害を受け、顔面および右大腿部に傷跡が残り、然もそれは人目につき一生消えぬものであるため、女子として堪えがたい苦痛を生涯背負うことになつた。また原告映子は祖母ミノリと姉匡子を同時に失つた。

頭書金員のうち三〇〇万円は原告映子自身の傷害に対するものであり(民法七〇九条)、他は祖母および姉を失つたことに対するものである(民法七一〇条)。

(ホ) 原告マサ、同和子、同道子、同智子、同鉄兵衛、同シマ子、同八百蔵、同ツヤ子 各一〇〇万円

右原告らはいずれも母親ミノリとは離れて暮しているが、屡々実家を訪ねており、ミノリは右原告ら兄弟の精神的な支えとなつていた。

原告らは突然ふつてわいたような本件事故のため一瞬にして母親と姪を失い筆舌に尽し難い精神的苦痛を受けた。

(ヘ) なお以上の慰藉料算定については、本件事故が被告伊藤の一方的過失によつて一家の主婦および一人の孫が死亡し更に一人の孫が負傷したという悲惨なものであるに拘らず、被告らがこれ迄何らの誠意ある態度を示めしていないことを十分に斟酌すべきである。

(五) 亡ミノリ、同匡子の死亡に対する自賠責保険金

右の両名の死亡に対し自賠責保険金各三〇〇万円が支払われ、亡ミノリの分についてはその夫である原告重衛、その子である原告昌太郎、同マサ、同和子、同道子、同智子、同鉄兵衛、同シマ子、同八百蔵、同ツヤ子の一〇名が各三〇万円宛、亡匡子の分についてはその両親である原告昌太郎、同恵美子の両名が一五〇万円宛受領した。

(六) 本件請求

よつて原告らは被告らに対し各自左記金員とこれに対する昭和四五年七月一六日(本件訴状副本送達の翌日)以降完済迄民法所定の遅延損害金を支払うよう求める。

原告重衛 六七九万七一六円

第四項(1)、(3)、(4)と(7)の(イ)の合計七〇九万七一六円から第五項の三〇万円を控除した金額。

原告昌太郎 六七五万八、四〇四円

第四項(1)、(2)、(5)、(6)と(7)の(ロ)の合計八五五万八、四〇四円から第五項の合計一八〇万円を控除した金額。

原告恵美子 三六三万九、四二八円

第四項(2)と(7)の(ハ)の合計五一三万九、四二八円から第五項の一五〇万円を控除した金額。

原告映子 四〇〇万円

第四項(7)の(ニ)の金額。

その余の原告ら 各七九万八、九七六円

第四項(1)と(7)の(ホ)の合計各一〇九万八、九七六円から第五項の各三〇万円を控除した金額。

三、被告らの答弁

(一) 本件事故の発生についてはすべて認める。

(二) 被告らの責任に関する原告ら主張の事実は認めるが、被告会社に自賠法三条の責任があることは争う。

(三) 本件事故被害者と原告らの身分関係はすべて認める。

(四) 原告らの損害に関する主張事実は不知。

なお慰藉料については民法七一一条に規定する親族以外の原告らの請求を争う(大判、昭和七年一〇月六日、民集二、〇二三頁)。右規定外の親族に対し慰藉料請求権を認めるためには特殊な事情が必要である(加藤一郎、不法行為、法律学全集二四二頁)。本件の場合は民法七一一条に規定する原告らが莫大な慰藉料を請求しているのだから、原告ら主張の事実を勘案したとしても、右規定外の親族である原告らが慰藉料を請求し得る理由はない。

また本件弁護士費用は本件事故に基づく損害としての相当性がない。即ち被告らとしては誠意をもつて原告らと本件損害賠償についての交渉に当り、財産上の損害については原告らが正確な資料を提出すれば容易に妥結し得る状態にあつたし、慰藉料額についても判例上認められている社会的に妥当な金員の支払には応ずると明確に回答していた。

然るに原告らは当初亡ミノリについて一、九一〇万五、〇八六円、亡匡子について二、七八四万三、四四六円、原告映子について五九三万三、五〇〇円の要求をし、その後の交渉においても本訴請求金員をはるかに上まわる要求をし続けた。

損害賠償請求において一般に弁護士費用の請求をなし得ることは被告らも敢えて争うものでないが、本件の如く被告らとしても妥当な額であるなら支払う旨の意思表示をしているのに、原告らにおいて常識上納得できない金額を固執して争い遂には訴訟提起に至つた場合、その弁護士費用は全体として通常生じ得べき損害でないというべきである。

四、補助参加人の主張

(一) 亡ミノリの逸失利益について

原告らは亡ミノリが助産婦として稼働していたと主張するが近時の女性は殆んど病院にて出産しており助産婦の用はなくとても原告ら主張のような高収入はなかつた筈である。仮に亡ミノリに主婦としての家事労働を一定の収入あるものとして計算することが可能であつたとしても、その生活費を控除すれば逸失利益は零とみるべきである。またその稼働年数も多くの判例が示めすとおり六三才迄の四年間とするのが相当である。

(二) 亡匡子の逸失利益について

原告らは亡匡子の稼働年数四五年のホフマン係数を単純に主張の利益に乗じているがそれは誤りである。右ホフマン係数は死亡時四才、稼働可能期間一八才から六三才迄とすれば左記のように算出すべきである。

六三才-四才=五九年間、このホフマン係数二七・一〇

一八才-四才=一四年間、〃一〇・四〇

本件の場合の係数二七・一〇-一〇・四〇=一六・七〇

このようにして算出したホフマン係数に主張の利益を乗ずれば三〇七万五、一三八円となる。

なお亡匡子の四才から一八才迄の養育費、少なくとも月五、〇〇〇円として一四年間分をその父母である原告昌太郎、同恵美子夫婦の損害から控除すべきである。

(三) 葬儀費用について

原告重衛の請求額は、死者二人であるとしても、老女と幼女でありその社会的地位および合同葬儀であることを考慮すれば一般の基準(ちなみに東京・大阪・名古屋の各地方裁判所では一件二〇万円である)よりみて高額に過ぎる。

(四) 自賠費保険の支払について

原告昌太郎の主張する亡匡子と原告映子の治療費は自賠責保険より支払済みである。

また原告映子の慰藉料についても右大腿五糎の瘢痕のみでは後遺症等級表の級外であり、慰藉料として既に自賠責保険より二万二、〇〇〇円が支払済みである。

五、証拠関係〔略〕

別表(一) 原告重衛の支出した葬儀費。

内訳

(1) 写真代 五、〇〇〇円(長谷部写真店)甲第六号証の一

(2) 返礼ハガキ 三五〇円((株)白善社)〃二

(3) 返礼ハガキ 一、九〇〇円((株)白善社)〃三

(4) 料理仕出し 三〇、〇〇〇円(魚勝商店)〃四

(5) 料理仕出し 九三、六〇〇円(魚勝商店)〃五

(6) タクシー料金 四、七八〇円(五頭タクシー)〃六

(7) 火葬用自動車 四、〇〇〇円(水原公益社)〃七

(8) 生花代 一、六〇〇円(生花のちぐさ)〃八

(9) 造花代 三〇〇円(高橋造花店)〃九

(10) 位牌御棺及び祭壇用費用 二一、〇四〇円(高橋喜代次商店)〃一〇、一一、一二

(11) 薬品代 四、六六〇円(中村薬品店)〃一三

(12) ドライアイス 一、〇五〇円(田代乳業(株))〃一四

(13) 返礼用函詰茶 九、六〇〇円(能勢山商店)〃一五

(14) 葬儀用菓子代 八五、六〇〇円(田中屋菓子舗)〃一六

(15) 清酒及び飲物 一七、八六五円(神田商店)〃一七

(16) 食品代 二、六四〇円(金子商店)〃一八

(17) 毛布、シーツ 二、一〇〇円(西田布団店)〃一九

(18) テトロンカツター 一、三五〇円(高沢マント店)〃二〇

(19) 清酒代 二一、二八〇円(伊藤商店)〃二一

(20) 饅頭代金 一六、五〇〇円(清林堂商店)〃二二

(21) 清酒代 二、三二〇円(五十嵐商店)〃二三

(22) 豆腐及び油アゲ 一、三五〇円(伊藤豆腐店)〃二四

(23) 野菜及び食品 二、六〇〇円(遠藤商店)〃二五

(24) 食品代 八、一四〇円(前田商店)〃二六、二七

(25) 御布施代 五〇、〇〇〇円也

(26) 祭壇費 一五、〇〇〇円也

(27) 納骨及び回向費 三二、〇〇〇円也

(28) 燃料費 三、七〇〇円也

(29) その他書類代及び雑費 五、〇〇〇円也

合計 金四四五、三二五円也

別表(二)、原告昌太郎の支出した治療費、交通費、諸雑費。

内訳

(1) 電報代 一四、二九三円(新津電報電話局)甲第七号証の一

七、六〇〇円(オオヌキ商店)〃二

(2) 診療費 九八〇円(水原郷病院)〃三

(3) 診療費 四二、七八四円(新潟中央病院)〃四

(4) 診療費 三〇〇円(〃)〃五

(5) 診療費 三〇〇円(〃)〃六

(6) 死亡証明 七〇〇円(京ケ瀬村役場)〃七

(7) 交通費 二八、六〇〇円(アポロ交通)〃八

(8) 診療費 七六五円(水原郷病院)〃九

(9) 交通費 三八〇円(水原タクシー(株))〃一〇

(10) 交通費 四、五〇〇円(〃)〃一一

(11) 交通費 一、一五〇円(〃)〃一二

(12) 交通費 四六〇円(〃)〃一三

(13) 六、七五〇円(大貫洋品店)〃一四

(14) 容器代 一、五五五円(神田商店)〃一五

(15) 三〇〇円(山辰建設)〃一六

(16) 食品代 一、九〇五円(小林商店)〃一七

(17) 交通費 一、二九〇円(水原タクシー(株))〃一八

(18) 交通費 一、〇六〇円(〃)〃一九

(19) 治療費 一七、八三五円(水原郷病院)〃二〇

(20) その他 七、二七八円

合計 金一二〇、〇〇〇円

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